今を生きる。


観て来ました。
原作は読んでおらず、お友だちの良かったという感想を聞きいそいそと映画館へ。


とても良かったです。美しい作品でした。
どの人も「生きてる」感じがして、不意に何度も涙してしまいました。


登場人物たちは他人から見れば変わり者と扱われていたけれど、
どの人にも感情がすっと入っていってしまいます。
傍から見れば変人かもしれないけど、映画を観ていると
自分の中にある部分をつつかれている気がして、ハッとして自分を重ねていました。
気持ちをうまく言葉にできない馬締も
好きな人ができたら仕事も手につかなくなったり、
言われたら次の日から積極的に話しかけたり、
そういう姿を見ているとどんどん愛おしくなってきます。
大袈裟に気持ちを表現する人はいないものの
静かさの中に熱であったり、焦りであったり、悲しさであったりを感じることができて
言葉を題材にしている作品であっても言葉だけに頼らず
その人を通して伝わるものがありました。
ひとつひとつの言葉と向き合って、じっくりコツコツつくっていく「辞書」と
丁寧にしっかりとつくられたどの人も違和感なく存在するこの映画は
似ているような気がしました。


人が生きるように言葉も生きる。
生まれたりなくなったりしていく言葉を「今」という時代を通して残していく。
10年以上をかけてつくりこんでいくという
根気と愛情のいるすごい仕事だなぁと思いました。
わたしが「辞書」をひく時は、正解を知りたいという気持ちからです。
伝えたい気持ちはこの言葉で合っているのか、意味でいうとこの漢字なのだろうか…
そして、辞書をひいて見つけた言葉を選びます。
辞書を見れば、不安はなくなります。
それがどれだけの仕事なのか、この映画を観て少しだけ分かった気がしました。


今ではキーボードをたたけばすぐ答えが出てしまいますが
紙のぬめり感まで考えてつくっていることを知れば知るほど、
キーボード叩いてる場合じゃないなと思いました。
学生さんが見ると、きっと辞書ひきたくなるんじゃないだろうか。


「憮然」という言葉のように、時代によって意味が変化してしまう言葉もあれば
友人に聞いた話だと今は「怒る」ことを「おこ」と言うように
生まれてくる言葉もある。
「とっくり」って言ったら笑われるし…
この言葉、今は使わないのかと口にするまで気がつかなかったりします。
同じ意味の言葉が同じ音の言葉がたくさんある中で、
どの「言葉」を選ぶかで伝わり方も違ってしまう。
ほんと「言葉」は難しいなぁと思うのと同時に面白いなぁと思えました。



出ている方はみんな好きですが、八千草薫さんがとても好きな役者さんなので、
あの佇まいにまたも心を奪われ、そして西岡が愛おしくて仕方なかったです…
普段演じられているキャラクターとは違った一面が見れる素敵な映画でした。
ちなみにパンフがシナリオ付で、あらま!と購入。
シナリオでは44歳という設定の装丁デザイナー。いいお芝居でした。