この世界は美しい。

※ネタバレ含まれています。
あくまで一個人の平べったい感想ですので、色々ご了承頂いた上でお読み頂けると助かります。






いいのか悪いのか…
わたしは小説というものを作者の背景を意識して読んだことがありません。
ただ、この小説だけは、何度も色んな思いを想像しながら読むことしかできなかったのです。
だから、この小説を先入観なしで、ひとつの小説として読める人が心底羨ましくて堪らなかった。
その分、特別な小説になったことも間違いなかったのです。


この数年間、ピースの又吉さんという人を色んな角度から見て
時間にすればとてつもないけど、それは本人を形成するほんの一部分なんだと
何度も思い知らされる場面が多くありました。
後輩に優しくてデレデレで、
でも自分のお笑いにストイックで、
意外にキレやすくて、
徳井さんに同期で一番性格の悪いコンビだと言われて。
この人にはどれだけの面があって、
どれだけの想いを巡らせているのだろうと
当たり前な自分との距離を感じて、動揺したりもしました。
この小説を初めて読んだ後は、特にそのことをひどく感じました。
感じたけれど、読み進めていくうちに、ある時、目の前がパッと晴れたのです。
「この世界は美しい」
そう言われていることに気づいた時、とても救われました。


『火花』の中で特に印象に残ったのが
「美しい」というフレーズと「阿保」という言葉でした。
「この美しい世界を台無しにしなければいけない。」
というこの小説の中の美しさとは、
姉のために罵られても独断でエレクトーンを買った母の姿で、
雨が降っていないのに好意で貸してもらった傘をさすという姿がある、
この世界なんだと。
「阿保」とは、
この小説に出てくるすべての
全身全霊で生きている、どうしよもなく不器用な人たちなんだと。


そんな誰かがいる世界は美しくなければならないと
そういわれているような気がしました。
それも含めて美しい世界なんだと思えてくるのです。
自分らしく、周りを気にせずに生きるということが、
こんなにも難しいのを知っている人が書いたこの小説は
未来は明るくて、生きている価値のある素晴らしい世界だと
言われているような気がしました。
他人から見たら、無様で煙たがられるかもしれない生き方でもみんな生きているし、
無情さを拍手の音で変えられるやさしさがどんな人にもあるんだと。


「絶対に全員必要やってん」
芸人である人も、だった人も、
お客さんも、
不器用にしか生きられない人も、
周りが気になる人も、
色んな人の想いを救い上げている・寄り添ってくれる小説に思えて仕方ありませんでした。


この小説の中で特に美しく思えたところが
真樹さんを見かけた時の徳永の心情でした。
誰かの幸せをただ願うということがこんなにも尊いことなのか。
あんなにも真っ直ぐな言葉で描かれていて、
胸が締め付けられました。



読んで感想を書くのが、これほど怖かったものはありません。
それは、ファンであるということもあるだろうし、
これはこの人のことかな…とか、
本当は必要ない情報までも、読んでて勝手に想像してしまい、
そのことをただ露呈することしかできなくなりそうだったからです。
そして…
本当は小説を書いて欲しくないという思いが
何様なのかと思いますが、ほんの僅かでもわたしの中にあったこと。
書いてしまったら「芸人」である部分が薄れてしまうんじゃないかという
浅はかな考えがあったのかもしれません。
けれど、『火花』を読んで、ほんの僅かでもそう思っていた自分が恥ずかしくなりました。
「スタンドマイクに向かって一礼する。」
そんな光景を描いている、これは間違いなく「芸人」「お笑い」を描いた作品で
これ以上ないくらいに芸人である又吉さんの書いた作品そのものに思えたので
読めたことが嬉しかったです。
全く、こんな風に書いたところで言葉にできない思いがありすぎて
人様の感想も読めずで…
どうしよもない状態です。




「まだ何かに選ばれることに期待している」
その句で締められた『カキフライが無いなら来なかった』
「死にたくなるほど苦しい夜には、これは次に楽しいことがあるまでのフリなのだと信じるようにしている。」
と書かれた『東京百景』
そして『火花』も未来を信じる小説でした。



この世界が美しいと教えてくれたこの小説は、
誰よりも阿保で、何よりも生臭くて美しい。



又吉直樹『火花』
2015年3月11日(水)単行本発売
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163902302


『実験の夜』
(又吉さんが月一度行っているライブです)
2月16日(月)21:30開場/21:45開演(約一時間くらい)
チケットよしもと●http://yoshimoto.funity.jp/
無限大ホール●http://www.yoshimoto.co.jp/mugendai/
※立ち見は一番高いところにあるので少し見下ろす形になりますが、
見えにくいことはないと思います。
地べたに座ることも出来るので、座ろうと思えば座れます。