恩返し。

最後の予選リーグの『ダイナマイト関西』を観終えた後、
ロックをガンガンにかけて、肩を落として歩いていた自分がいました。
又吉さんが予選突破したのに、なんでだろうとずっと不思議でしたが、
話していてそれがパッと晴れた気がします。
※あくまで、ただの客の思い込みです。ご了承ください。





中居くんが「バラエティーって残酷なものだと思います。」*1って話していたのは
凄く印象的なことで、本当にそうだって思ったけど、
「お笑いも残酷」なのかなと思ったことに行きつきました。


「若林対又吉」「せきしろ対又吉」
という見応え十分の対決が行われた今回、
特にこの二組の対戦での空気は、他とは全く違うものでした。


若林さんは対戦前に流れるVTRで、又吉さんには勝ちたいと闘志を燃やす。
「読書芸人」「テンション低い芸人」「女の子苦手芸人」「ウォーキング芸人」
と同じ括りで登場することもしばしばある二人。
オープニングでも、又吉さんが仕事で遅れているため登場できずだったため、
「お客さんも又吉くんの顔が見たいでしょ?」とA先生扮するスティーブキムズにより
対戦カードの写真をアップにされるという事態が起こる。
又吉さんの上だった若林さんにも被害がおよび、顔をアップにされると
「又吉くんも僕もこういうの一番嫌いですよ」


それにしても、若林さんのこの闘いに臨む思いが強くて、見ていても恐いくらいでした。
「鬼気迫る」というのは、こういうことなのかというのを目の当たりにして、
体から漲っていた何が何でも勝つという思いが答えに乗っかって、勝ちをもぎ取っていきました。


そして、予選リーグ最後に行われた対戦が「せきしろ対又吉」という師弟対決。
これがラストとは、あまりにも出来すぎではないだろうか。
この二人を繋ぐきっかけとなったのは『カキフライが無いなら来なかった』。
又吉さんが、まだ世に出てなかったころにせきしろさんから自由律俳句を一緒に作らないかと誘ってもらい、
どんなに断られても又吉くんとでなければやらないというせきしろさんの強い思いから実現した本。
そして又吉さんが年一回開催している『太宰ナイト』もせきしろさんの後押しがあって開催することができた。

せきしろさん。せきしろさん。せきしろさん。
せきしろさんに受けた御恩は一生忘れないくらいではすまされない。
そんなことは当然なのだ。
それなのに僕は未だに迷惑をかけ続けている。*2

せきしろさんはせきしろさんで

私にいろいろあったときに親身になってくれた人が二人いて、
そのうち一人はもちろん彼*3だった(ちなみにもう一人はバッファロー五郎のA先生である)。
彼には恩返ししたいと思っている。お金はないのでそれ以外で考えている。
内臓、角膜、血液等を彼に提供できる準備はすでにできている。*4

先日の『太宰ナイト』でもせきしろさんに「いいじゃん。」と言われ、誇らしげな又吉さんの姿がありました。
こんな風にお互いを思いあっている二人が闘わなければならない時が来てしまいました。


こちらも、二人ともペンを走らせる音が鳴りやまない対戦。
実況が入る間もなく、ただひたすら「はい」という声とお題と答えを読む声が響く。
結果、又吉さんが勝ち、言った言葉が
「最後はせきしろさんに教えてもらった技で勝ちました。困ったら、自然を出せと。」
最後まで師匠を立てる又吉さん。
涙を拭うせきしろさん。
握手を求めるせきしろさん。


その二人が、舞台端に寄るとき、せきしろさんが又吉さんに一言かけていたのを見てしまった。
何を言ったのかは分からないけれど、それに又吉さんは静かに頷いていました。
その後も、A先生には申し訳ないけど、ずっと二人を見ていた。
二人が立っている間には、妙な間があった。
せきしろさんは気持ちが高揚しているのか、泣きそうなのを抑えるためか、
普段は見ないようなツッコミをして場を盛り上げていて、
その姿を見ていて、また心がぐらぐら揺れました。


「面白い」という判断基準は人それぞれ全然違くて、
きっとどんな結果が出たとしても、満場一致でという結果は有り得ないんだろうなとたまに思ったりします。
だからこそ、面白さで勝ち負けというものを判断しなけならならない時には、
一種の残酷さが伴うのかなとも思いました。


今回は「勝ち負け」に拘る対戦ではないと思うけれども、結果として「勝ち負け」が出てしまった。
しかも、師匠に勝つという形で。
これによって、又吉さんのグループリーグ突破も決まったけれども、
手放しで喜べなかったりもした。
ものすごくいいものを見たと思えたけれど、最後の最後に、気持ちが揺らぎまくった。
わたしが又吉さんを初めて見た時、実は隣にせきしろさんがいた。
綾部さんではなくて、せきしろさんだった。
そして、わたしが又吉さんをはっきりと認識したきっかけが『カキフライが無いなら来なかった』だった。
こんな人たちがいるんだ。同じことを思っている人がいるんだ。
という安心感と本屋でにやにやしたことを覚えています。
だから、この対戦はなんとも言えなかった。
せきしろさんが、この本を出そうとしてくれなかったら、
又吉さんに辿りつけなかったかもしれない。
後から知ったら、悔やんでいたかもしれない。
そう思うと、この二人も出会ってくれたという必然にも、嬉しくて仕方がないのです。


対戦後、お二人が呟いていた言葉を読むと、胸が熱くなるけれど
いつまでも見ていたい対戦でした。
次にもし二人が大好きな大喜利を一緒にする機会があるのならば、
今度は笑いながら褒め合っているところを見たいなとも思います。
あの短い間に詰まっていた色んな思いを、ほんの少しでも共有できたと思うと幸せでした。
よしっ本選での又吉さんの闘いを見届けよう。

*1:笑っていいとも!グランドフィナーレ』2014年3月31日放送

*2:『東京百景』六十「井の頭公園」より

*3:又吉さん

*4:『acteur』2012年7月号より