あなただけに伝えたい言葉。

※ネタバレ含まれます。ご了承ください。

手紙は、滅びゆくアートです

想像以上に遥かに良かった『ラヴ・レターズ』


50年以上にも渡る男女の手紙のやり取りを描く作品。
深緑の椅子と赤紫の椅子、その間には水が置かれた机というシンプルな舞台。
手には『ラヴ・レターズ』の本を持ち登場した二人。
いつものように淡々と言葉を紡いでいく又吉さん(アンディ)と
感情豊かに表情豊かに言葉を彩っていく内山さん(メリッサ)。
温度差があるようにも思えかねない二人の言葉ですが
これが思った以上に、引き込まれるものでした。


今回、あの淡々さの中の「愛してます」「愛をこめて」
という言葉がなぜか無性に響くのでした。
変に飾られていないその言葉が、まっすぐで真を得ているような気がしました。
それはきっと、本当はとてもとても大切な人と分かっているのに
二人の状況は刻々と変化していき、すれ違っていく中で気付かぬうちに
背中に多くのものを背負込んでしまう。表向きにはうまく進んでいる中、
その背負込んでいるものを考えると、今すべてを投げ出すわけにはいかない。
けれど、本当に長い間、心の奥底にいる大切な人への思いを
伝えるからこその言葉だったから刺さったのかなと思いました。

僕は文章を書くことが大好きです

というような台詞もあって、又吉さんにリンクする部分もあったからかもしれません。
年齢を重ねても、アンディからの言葉に頬を緩ませるメリッサがすごく可愛らしく
内山さんによって、より魅力的な女性に映りました。
とても綺麗で素敵な女優さんでした。


物語の中にも出てくるのですが、手紙で想像を膨らませてしまって、
実際会うと自分が想像していた人を探してしまってうまくいかない。
それを繰り返して、繰り返して、やっと手にすることができた喜び。
すれ違っていくのに、じれったさというものがなかったのは
お互いに背景になるものがきちんと見えてきたからでしょうか。
それにしてもウトウトするなんて
わたしは以前、何を観ていたのだろうと恥ずかしくなりました…


アンディは大勢に向けて書く手紙が苦手で、誰かに宛てて書く手紙が好きで
中でもメリッサに書く手紙が一番好きです
というような台詞があるのですが、そういう人がいるというのは素敵だなぁと思いました。
そして、それが全てを表しているような気もしました。
手紙はその人だけに贈るものだから、その人が誰であるかが大事なわけで。


それに手紙を書くという行為は、気持ちがないと中々書けません。
気持ちがあってもうまく書けません。
この中でも、メリッサは手紙が書けず、手紙の牢獄から出して欲しい。
手紙より電話のほうがいいという台詞もありました。
でもアンディは言います。
手紙は誰にも邪魔されない。途中で切られることもない。と。


わたしは「字」ってその時の気持ちが出るような気がして、
調子がいい時は綺麗に書けるし、なんかダメなときは上手く書けないことが多いです。
だから、手紙を書くというのはものすごく緊張しいたりして
いっつもレターセットの便箋だけやたら減ってしまい、封筒が余ります。
もらうとすごく嬉しいのも手紙だったりして。
気分的なものかもしれませんが、同じ言葉でもメールより伝わる気がするのです。
以前たしかピースの二人だったと思うのですが
メールより手紙に書かれた「殺す」のほうが怖いという話をしいていた気が…します…




この作品は舞台上に動きがありません。二人は本を持ち前を向いて座ったまま。
最後、徐々に薄暗くなっていくというのが唯一の舞台上の動き。
ずっと正面を向いていた二人でしたが、
最後の手紙を読むアンディに微笑みかけるように嬉しそうに話すメリッサ。
何十年かけて、やっと二人の心が正面から混じり合ったように思えました。
そして、最後初めて実態として触れ合い、
ぎこちなく手を組んで帰っていった二人がとても微笑ましかったです。
又吉さん内山さん。素敵な時間をありがとうございました。
無性に手紙が書きたくなりました。