30年後も。

島田潤一郎(夏葉社)×又吉直樹(ピース)
「暗い青春と読書」
に行ってきました。


B&Bでのイベントは初めてでしたが、思っていた通り素晴らしい時間でした。
http://bookandbeer.com/

Twitterにもたくさん素敵なものあがってますので、
ほんの少しだけ…順不同で、言い回しなど違いますが、残します。
あくまでもわたしのフィルターを通して…ということだけご了承いただければと思います。


二時間に渡るお話で、途中10分の休憩がありました。
受け付けは名前を言ってチェックをしてもらい、ドリンクチケットを受け取ります。
何人か前に、世田谷ピンポンズさんらしき後姿を見かけたのですがご本人でした。
イベント前に1ドリンク制なので、ドリンクチケットと飲み物を取り替えます。
ビールからコーラ、ジンジャエール、オレンジジュース(粒入り)と品ぞろえも豊か。
この日は、ジンジャエールが人気でした。


木村さんから、イベント後にサイン会を予定しているとのお話があり、
この日に店頭で島田さんの『あしたから〜』と又吉さんの『東京百景』を購入した方にサインをして頂けるとのことでした。
そうしていると、お二人が入口から入ってくる姿が。
又吉さんはリュックを背負った状態で入ってきました。
そしてイベントスタート。


あまりの緊張に一杯ひっかけてきた島田さん。
客席を見渡して、誰が来ているかを確認。
島田さんのお母さんもいらしていたそう。
なんでそんなに緊張するかというと、その一つに又吉さんのお顔があるそうで。
「又吉さんは近くで見ると、ご自分で思っているよりかっこいいですよ。」と言い始め、ひかない島田さん。
「そんなことないですよ。」と謙遜するも、しょっぱなからいちゃつきだす
坊主とロン毛パーマのおじさん二名。


お二人の本に対する熱いというか温かい想いが溢れた二時間でした。
●継承すること。
本を読むことで、色んな体験をしているというお二人。
そのお陰で、色んな失恋も知っているし、そこから自分の経験を広げている。
本を読んで得たことを、継承していくことが大事なんじゃないかと。


島田さんも、古い作品を継承していくことが自分の役割なんじゃないかと思っている。
新しい装丁にすることで、新たな人に触れることになる。


「暗い青春と読書」というタイトルをつけた島田さんに関心する又吉さん。
島田さんは、中学時代の記憶はないといいます。
そんな中、二人とも本に救われてきた。
又吉さんは小学生まで無理をしていた。
学級閉鎖になりそうな時、又吉さんも朝吐いたりしていたが、
学校で元気にふるまっていた。
しかし、お母さんが連絡帳に「朝から吐いているので、具合悪そうだったら帰してください」
と書いていて、それを読んだ後先生がひいていた。
そんなこともあり、ムリをしないようになった。


●期待しない。
島田さんは、売れてから変わる人が多いのに
又吉さんは変わらず、端っこで本を読んでると聞いたそうで。
売れてから、変わるということはないのか?という質問が。
自分が変わるというより周りの変化が大きい。
好きという感情に期待していないので、変わってないんじゃないかとの答えでした。
でも、人はすごく好きですと。


先日も地元の幼馴染の友だちが久しぶりに母親に会って欲しいと言われ、
朝の4時くらいに家に行き、寝ているお母さんを起こした。
そんな時間にざわざわしていると、友達の妹さん(16歳くらい)
が隣の部屋からやってきて一言。
「めっちゃきもい」



●本とお笑いは相対するところがあるのか?
又吉さん曰く、発想は一緒とのこと。
本社で小説を書いてた時に、後輩から「R-1出ないんですか?」と聞かれ、
出ないと言ったら小説に逃げてるという風に捉えられた気がしたのがイヤで
そこからR-1出場を決意。
その時、書いていた小説の中からネタをつくり、準決勝まで進んだ。
だから発想は同じで、料理の仕方が違うということなんじゃなかと。


●経験があるからこそ。
お二人とも小説を自分で書いた経験があるからこそ、本を読む面白さも倍増した。
今では一行目から面白くて仕方ない。
又吉さんは本を読んでいて、この設定自分も思いついたと思い出し、
いざ原稿用紙を買って面白いと思って書き始めたのに、10枚で終わってしまった。
島田さんも書いたことがあるが、A4一枚に起承転結が入ってしまって、
それだけの文章になってしまった。


島田さんは、小説になる前、校正をするために
テキストとかワードで文章を読むことがあるけど、もうその時点で圧倒的に面白い。
天才との間には、圧倒的な差があると実感させられるそう。


出版社によって同じ本でも全く違ってくる。
太宰も色んな出版社から出ているけれど、それぞれ違うものに感じるので、
同じ作品でも何冊も持っている。
『コインロッカーベイビーズ』に至っては、下巻だけ3冊持っている。
お金がないころに、下巻だけ50円?で売っていて、まず下巻だけ買った。
その後、上下巻を見るたびに、下巻だけ先に買うなんてトリッキーなことしないよなと考えて
ついつい下巻ばかり買ってしまい結果3冊。
今では、上下巻ではなく一冊になったので、それまで待てばよかったと。


今、島田さんも、上中下巻ある本の下巻だけ探しいて、
同じものを買ったりはするけども、3冊同じものは流石にないと。



●一派。
3,500円の本までは気兼ねすることなく買えるようになったと話す島田さん。
でも3,600円になったら5,000円と同じという話から、金額の区切りの話になり、
5,000円一派の中で100円が独りで呑んでいたらかっこいいという島田さんの世界へ。
5,000円一派とは2,600円から5,000円前後までの括りのことらしい。
このくだりはだいぶ楽しそうに話す島田さんがいました。



●値段設定。
夏葉社さんの装丁はカバーをつけていないので、返本されると、もう売れない。
普通の本ならば、カバーを付け替えて売ることもできるそう。
返本されて日焼けしいてしまった…そんな本が会社にたくさんある。
本当は4,000円くらいで売ればいいのだろうけど、
そうすると買ってもらえる人が限られてくる。
2,200円という値段にして、間口を広げている。
又吉さんもライブに関しては極力、値段を下げたいと思っている。
きったないジーパン履いたような中学生にも足を運んで欲しいそう。


●息の長い本に。
布の装丁で、カバーをつけないことの意味。
島田さんは、本を30年かけて売る気でいる。
そう思うとだいぶ気も楽になった。
ある方に校了後に言われた「本は君より長生きするんだよ。」という言葉が残っているそう。
又吉さんも本を見れば、本を愛している人がつくっていると分かると話していました。
その話を又吉さんがラジオでしていたのを聞いた時、島田さんがものすごく嬉しかったそう。


又吉さんも『東京百景』の装丁にはすごくこだわった。
編集の人も、その気持ちを汲んでくれる人だったので、あの装丁で出来たけれど、
遠巻きに、タレント本はそういうのじゃないと言われたこともある。


●お笑いの原点。
自分が100点だったら何を見ても、全部おもしろいと又吉さん。
面白い人順にゲラ(よく笑う人)だと話していました。
ギャグは寛平さんのものから、得たものが多いそう。
以前、ギャグのイベントに出た時に寛平さんが審査員でいらして、
「優勝したのは覚えてないけど、又吉のは覚えてる」と言ってもらい嬉しかった。
みなさん全然違うと思われてると思いますが
又吉さんのギャグは寛平さんから伝承しているもの。
体を使い方とかそうですよねと島田さん。


又吉さんのお笑いの原点は、新喜劇。
そこで寛平さんとめだか師匠がやる猿と猫のじゃれ合いが好き。
これに限らず、ドリフも動物ものがすごく好きだそう。
新喜劇の設定は借金取りと借金する人が猫と猿になってしまうという
よく考えるとめっちゃシュールだと話していました。


●同じにおい。
又吉さんから見ると島田さんは編集者さんというよりも、本屋さんに近い気がする。
善行堂 山本さん、ガケ書房 山下さんと同じ匂いがする。


島田さんは山本さんには出版社が大変な時からとてもお世話になっていて、
今では好きなものを好きなように買えるようになったが(かといって高いものを買うわけではないそう)
今でも山本さんは会うと、マウントレーニヤを買ってくれる。


島田さんは、バナナ味は好きでバナナケーキ?(半月型のコンビにで売ってるパン)は好きだけど、
まるごとバナナは好きじゃない。


●存在。
お二人にとって本という存在は、全部うけとめてくれるもの。
それは人によって違う。
本だったりお笑いだったり建物だったりカレーだったり。
本はすごく優しくて、並走してくれる存在。
島田さんと又吉さんは、そう思える感覚を共有できる。
又吉さんは、お笑いもすごく好きだけど、傷付くこともあるので
好きと言っても、また違うもの。


小説が好きと言うよりも、本自体、本そのものが好き。
だから、買って満足する本もある。


アメトーーク』で「読書芸人」をやると話をもらった時も、
本で笑いは取れませんと話したものの、
好きなことを好きなように話してもらう番組なので大丈夫ですとの答えだった。
本に集中しだすと本に埋もれてしまって頭の上でページをめくる様は、もうギャグだと思われている。




ラスト10分となったところで、ずっと触れられずにいたお二人の間にあるホワイトボードの意味が解明される。
島田さんが世界文豪イレブン、又吉さんが日本文豪イレブンを発表して戦わせてみようという展開があったそう。
時間もないので、世界文豪イレブンだけ発表して終わりにしようとなりました。
しかし、話出すと止まらない二人。
又吉さんの文豪イレブンも発表しだし、
谷崎はMだからゴールキーパー。攻められるのに慣れている。と言ったことを
しかし、世界偉人イレブンでイエスをワントップに据える素晴らしさといったら、ありません。

「みなさんメモして帰ってくださいね。」と何度も言ってくれる又吉さん。
終演後、ホワイトボードを外に出してくれ、写真撮っていいですとのことでした。
これだけで90分はいけると楽しそうなお二人。
しかし、それをB&Bさんが許してくれるのか不安そう。
本当は今回のイベントの中で帯を考えるというコーナー?も考えていたそうですが、
時間が足りず、出来なかったようです。
又吉さんは「島田さんに質問とかありますか?」と何度もお客さんに聞きながら、
豪華なイレブンの話で賑やいだまま終了となりました。




二時間はあっという間で、
お二人ともたくさん楽しそうに話してくださったので、とても幸せな時間でした。
「島田さんは好きなこと仕事にされてますよね」と言って
「又吉さんもですよね」と言われ「奇跡的に…」と言ったり、
こうやって又吉さんとお話できてうれしいと話す島田さんに「僕もそうですよ。」と話したり、
そういう一言一言が聞いていて、妙に嬉しく思えました。
そして、お二人が本という存在を擬人化して話しているのが、すごく素敵で。
とても大切な人のことを思って話しているように聞こえてきたことが
愛情を感じられて、いいなぁ…と思いながら聞いていました。


それにしても、又吉さんが話をリードするような場面もあって、
島田さんが興奮して5,000円一派のあたりで世界に入り込んでいると、
又吉さんがお客さん側に立って、分かりやすく噛み砕いてくれたり、
後半始まったら、きっと島田さんの出版社を始めるということの話も聞きたい方いらっしゃると思うので…
と話を始めたり、なんだか又吉さんそんなんも出来るのか!頼もしい!と勝手に思うのでした。
又吉さんがライブの値段を下げたいと話しているのもなんか嬉しくって…
自分たちの利益うんぬんより、
来てくれる人・読んでくれる人を考えてつくってるお二人がいてくれることは、とても幸せだなと。
お二人にとっての本が、わたしにとっては劇場なのかなとも聞きながら思ったり。


『あしたから〜』はすごく読みやすくて、
その上、この人がつくっている本なら読みたいと思えるような揺るぎない気持ちが生まれてきます。
涙腺が緩んでしまうような素敵なお話もたくさんあって、
その行動力と誰かを思う想いで自分の世界は変えられるのかなと思えてきます。


島田さんも又吉さんも、それぞれに興味があって、
しかも共有できるものが多いものだから、お互いのお話もたくさん聞けたし、
いつまでも聞いていたいな…と思ってしまいます。
島田さんの人柄がすごくにじみ出ていて、嬉しそうだったり、真剣だったりという
その眼差しが見つめる先を、一緒に見ていました。
夏葉社さんの本は、ほんと手に触れることが嬉しくなるような本ばかりで、
触れて「わぁ!」という喜びを久しぶりに思い出させてくれます。
そして、相も変わらず木村さんが美しくて…見つめてしまうという気持ち悪さですみません。


いい本を広めたいという想いから、今の仕事に就いた。
身近な人を亡くしているから、人生は短いという思いがある。
というような話の中で、やるとやらないとでは大きな差があるみたいな話が出てきて、
『芸人交換日記』にも同じようなフレーズが出てきたことを思い出して、
改めてグッと身に沁みたと同時に、
自分はどうしたいのだろうとまた袋小路に迷いそうになりました。
そうは言っても、すごく満たされた時間で、
帰りに夏葉社さんの素敵な装丁の本を買って帰りました。

帯にはお話にもあった「30年後も」という言葉。


B&Bのみなさま、島田さん、又吉さん
素敵な時間をありがとうございます。
また機会があれば、もっとお話を聞いてみたいお二人です。
お友だちにもありがとう。

『あしたから出版社』島田潤一郎

Amazonhttp://urx.nu/b0Ny


夏葉社
http://natsuhasha.com/


「夏葉社まつり」9月6日(土)11:00〜18:00
阿佐ヶ谷CONTEXT-S●http://www.geocities.jp/context_s/