映画をつくる。

種田陽平による三谷幸喜映画の世界観展」開催を記念して、
上野の森美術館で、種田陽平さんとトークショー
あっと言う間の90分。
質問コーナーで「コメディアンの条件は」と聞かれ、咄嗟に「リズム感」と答えた。
頭の中にあったのは、香取慎吾さんと深津絵里さんでした。

という三谷さんの呟きであったトークショーに行ってきました。
三谷さん香取慎吾好きですよねぇ嬉しい。
展覧会の方は、こちらに書きました。



好きだけど、機会がそんなにないと言う三谷さんと、機会は多いけどあまり得意ではない種田さん。
初っ端、ずっと気になっていたという三谷さんからの質問。
「(展覧会のタイトルの)「種田陽平による」はどこにかかってるんですか?」
種田さんによると最後の「展」にかかってるそうです。
だから、よく見ると「種田陽平による」と「展」はそこだけ字体が違っている。
このタイトル字は種田さんが書いたものだそう。


種田さんと三谷さんでつくった作品の予告編を見ながら、
その時々のお話など…ほんとあっという間に90分でした。
お二人で組んだのは
『THE有頂天ホテル』『ザ・マジックアワー』『ステキな金縛り』『ベッジ・パードン』『清須会議
※『ベッジ・パードン』のみ舞台。
あまりに横長の客席を見て、端の皆さんは見えるのかと不思議がるお二人。
普段は縦長で使っている会場を、少しでも近くで感じられるようにと今回は横長にしたそう。



印象に残ったところを少しだけ。
あくまでわたしの解釈が入ってしまっているので、ご了承頂ければと思います。
●リアル
三谷さんは現実から3cm浮いたアンリアルが好き。
三谷さんが言うリアルは、他の人からしたらリアルではないので、
種田さんたちスタッフは驚くことが多い。
『ステキな金縛り』のKANさんが出てくる面会のシーン。
そこで電話を使って会話するというのは三谷さんの発案で、それを聞いてスタッフはみんな「?」だった。
けど、三谷さんの作品の中であれば、それはリアルとしてぴったりはまる。


三谷さんは、つくりものの中にあるリアルが好き。
最近は屋外にセットを作ることが多いが、三谷さんは屋内にセットを作りたかった。
三谷さんが小さい頃から見てきた映画はそうだったから。
(※『ザ・マジックアワー』は屋内に街のセットをつくった)
そこに本物の水で雨が降るといったようなリアルが好きだそう。


●セットで感じた喜び。
有頂天ホテル』の時に種田さんがつくったセットに初めて入った時、三谷さんは物凄くワクワクした。
そのワクワクを映画に詰め込みたかったが、今までそのワクワクを詰め込むことができなかったけども、
今回(『清須会議』)それを詰め込むことができた。


そのセットのすべてを映そうと思って悩んでいた時に、
スタッフさんから「映らないセットも役者さんの目に映っていれば、それで役目を果たしている」
というようなことを言われ、救われた。
(※この部分は展覧会の音声ガイドにて三谷さんの言葉で聞くことができますので、ぜひ)


セットを壊すことに抵抗はないのかと思っていた三谷さんは
「セットが壊されることによって、その映画の中だけに存在することになる。」
という種田さんの話を聞いた時、嬉しかった。
今回のセットを組んだ方が黒沢組のスタッフさんで、ある時に次回作を作る黒沢組の他のスタッフさんを引き連れて、
清須会議』のセットを自慢していた。
そのくらい今回の美術は凄いもの。


●理由。
三谷さんの作品が台湾?で映画館で笑った回数?で記録をつくった。
もし国境を越えられる理由があるとすれば、
時代や風俗を排除して映画をつくっているから。
『ステキな金縛り』では、珍しく生活感のあるエミの部屋が出てきた。
映画の中の世界のお話をつくることができる。
同じ理由で、三谷さんの作品は古くならない。


●時代劇はみんなの夢。
時代劇はファンタジー
映画屋さんは、時代劇を作りたい。
だから、今回その恩返しと思ってつくったのもある。


●最高傑作。
どの映画の予告篇にも「最高傑作」と入っていることに気づいてしまった三谷さん。
そこで種田さんが「チャップリンはどれが最高傑作と聞かれて何と言ったか知ってますか?」
という答えに、二人で「次回作!」
だから、それでいいんですと。
何本前が最高傑作なんて監督イヤですよね。塗り替えていかないと。という話に。


自分が映画監督という認識はなくて、
清須会議』は、映画ファンと歴史ファンがつくった一番理想に近い形にできた。


●プロじゃないからこそ。
三谷さんは映画という分野では、プロではない。
種田さんが『ベッジ・パードン』で舞台の分野に久しぶりに参加した時、
「客席の椅子を全て革に張り替えて、そこもロンドン感を出したい」と言ったり、
舞台には珍しく四面のセットをつくって、客席から見たら壁になる部分をどうどかすかと話していたら
「気付いたら無くなって欲しい」と
演劇のプロである自分たちでは全く思いつかない発想が出てきて面白かった。
だから、自分が映画に参加するときは、そういう立ち位置でいいのかなと思っている。


●大事なのは廊下?
種田さんが三谷さんの作品で大事にしている部分は廊下。
映画だと、スムーズに場面転換ができるよう廊下を利用している。
三谷さんの作品だと、AからBに移る時に話しながら移動していることが多くそこが重要だったりする。
(※『有頂天ホテル』の新館と旧館の連絡通路など)
清須会議』でもそれは活かされている。
三谷さんは種田さんからこの話を聞いて、初めてそのことに気づいたようで、
その理由は、たぶん舞台では廊下をつくることができないので、
映画ではそれが出来る分、そうしたいのかもしれないと話していました。


●展覧会の見どころ。
・『ステキな金縛り』の椅子。
 ローマ法王が座った椅子を作った職人さんがあの映画のためにつくった椅子。
 そこで写真が撮れるようで、撮りようによっては映画のワンシーンのように撮れるそう。
・『有頂天ホテル』のラッキー人形がどこかに展示されているので、見つけてください。




三谷さんのしっかりとしたお話を聞く機会というのは、初めてで…
生でその姿を見るのもだいぶ久しぶりだったので、
このトークショーを見つけた時は、跳ね上がりたい気分でした。
今回、展覧会の前売りを持っていれば無料だったので、
始めに、お金を払って来てくれている映画とかは、エンターテイメントを提供しなきゃいけないけど、
無料だから内容があればいいと種田さんが話されていましたが、
やはりそれぞれ一線で活躍されているお二人なので、
それは内容もあって、興味深く面白いお話が満載でした。


種田さんは見た目も話し方も温和な雰囲気の方でしたが、
そうじゃないというところはしっかり意思を主張している姿を見て、
自分の意思をはっきりできないわたしはハッとしました。
三谷さんは、お話をとってもしっかりしてくれて、
流れまできちんと整えて、やるなぁ…と密かに思っていました。
和田さんが書く三谷さんのイラストがほんとそっくりで、よく見ているので、
そのイラストが本当に動いている!みたいな妙な感動もありました。


いつも三谷さんばかりの目線で見たり読んだりしているので、
種田さんからのお話が新鮮で、とても楽しかったです。


歴史が好きと三谷さんが話していて、
本当は歴史上では違うけど、自分の理想も含めてこうしたとか
その話をしているのがとても楽しそうで、
聞いていても歴史に興味持てそうな気になりました。


あと、その分野のプロとして活躍されている方は、柔軟な考え方が出来るんだなと思いました。
今回の衣装を手がけている黒沢和子さんは、三谷さんの意見を一度も否定することはなく
それをきちんと形にしてくれる人だった。
映画にも乳母としてワンシーン登場されているそうです。
衣装も、それぞれの派閥?で色が実は分かれていて、
それもはっきり分かる色分けではなく、上品に仕上がっているそう。


そういう話を聞いていて、感動してしまいました。
作品というのは、やはりすごい人たちが集まって出来上がった奇跡なんだなと。
個人的な話をすると、三谷さんの映画を観に行くと、お客さんがどっと笑う瞬間があって、
年代・性別を問わず普段は全く違う生活をしている人たちが、
同じ瞬間に笑うとこんなにも大きくなるんだと思うことが何度もあって、
その瞬間泣きそうになってしまったことがあります。
これがコメディの力かと。
とても幸せな瞬間だなぁと思いました。


種田さん三谷さん実になるお話をたくさんありがとうございます。
色んな感情が掻き立てられました。やれるぞ!
何より『清須会議』が面白そうだと確信できたので、公開が楽しみです。