問う。


観てきました。
この作品だけはどうしても観たかったのです。



以下、内容にがっつり触れます。
西村さんと近藤さんの二人芝居。
舞台上には机とソファのみのシンプルなセット。
上演が始まるとスクリーンが降り、
この話は事実に基づきますが否定しているわけではありません
というような注意書き。
そして、真っ赤な文字で『90』。
舞台手前中央には絶えず水が流れ落ちています。


念願だった家をもうすぐ建てようとしている医師(西村)のもとに
ひとりの男性(近藤)がやってくる。
二人が出会うのは病院内の医師の部屋。
この男性は9歳の息子が交通事故に遭い、
未成年の為、手術には親であるこの男性の同意が必要だが
とある理由で同意書にサインすることを拒んでいる。
その説得にあたることになったのがこの医師。
息子の命を手術で助けるためには今の状態で90分がリミット。
そこから二人のエゴや見栄や医師として父親としての心がぶつかりあっていく。


父親はなんでそこまでサインすることを拒むのか。
そして、医師もなぜそこまでサインにこだわるのか。
そこには、それぞれ二人にしか分からない理由があり、
それがどうしても譲れない理由となってしまっている。



音楽もなく聞こえるのは水の音と台詞のみ。
舞台上にいるのは、中年の男二人。
なんで?なんで!!と思いながら観続け、
一体どう着地するものかと気付けば入りこんでいました。
台詞台詞を必死に追っかけたような気がします。
そして、舞台上に流れる水は息子の鼓動を表現しているんじゃないかと。



笑いどころが全くないのではないかとも思っていたのですが
ところどころ笑いもあり。
言葉の受け取り方なんて人それぞれで
言った言葉がその通り伝わることは難しいのかもしれません。
その人の背景によって全く違う受け取り方をする。
今回も息子が言ったであろう「死にたくない」という言葉の受け取り方で、
医師は言葉の通り「生きたい」と受け取り
父親は今までの親子の関係から違う意味に受け取ります。


きっとラストの受け取り方も人によって違うものになるのかなぁと。
ハッピーエンドでもあるかもしれないし、
ざらざらと何か残るラストかもしれません。


わたしが観た三谷さんの作品の中では一番重みのあるものでした。
いつも三谷さんの舞台を観終わるとスキップしたくなるような
ルンルンで劇場を後にするのですが今回はふらふら考えていました。



お芝居で客席がグッと舞台を見入って静寂に包まれる瞬間が好きで
その瞬間が今回もありました。
その中の3秒。
たったの3秒と思うかもしれませんが
その3秒が父親のこれから先の人生にとても大きな意味を持ってしまいます。
自分の中で答えは出ているのだろうけど、
世間の目だったり自分の見栄だったりで
意地を張ったり違う答えを出しそうになってしまうことがあります。

でも、自分の良心に従って出した答えが一番なのかなと感じました。


観れてやっぱり良かったです。
今年のお芝居はこの作品で締めです。
濃密な90分を有難うございます。